今回、登場するのは「#3 スクエアスリー 2020 春茶・夏茶」を手掛けた秋林健一。【前編】では、第二の「三井紅茶」を目指す作品づくりにおける探求の軌跡と「春茶」「夏茶」の開発背景について語ってくれた。
第二の「三井紅茶」を目指す探求の旅。次なる挑戦は
秋林:かつて世界からの好評を博した日本初の国産ブランド紅茶「三井紅茶」。わたしたち三井農林のルーツともいえる「三井紅茶」を超えるような紅茶を、もう一度自分たちの手でつくりたいという想いから始まったのがこの「#3(スクエアスリー)」シリーズです。開発自体は、すでに2016〜2017年頃から着手しており、初めて作品化したのが2018年の「Re-Pro(烏龍茶)」。その後、2019年の「BREAK(紅茶)」へつづきます。
今回の「夏茶」は、2019年生産「BREAK」の製法を受け継いだ2020年生産版となります。昨年の「あの味、あの香り」というクオリティの再現性をいかに担保できるかが課題となりました。
一方の「春茶」では、これまでの「Re-Pro(烏龍茶)」、「BREAK(紅茶)」で挑んできた萎凋(いちょう)・発酵度の“強い”茶葉づくりとは異なる、萎凋・発酵度の“弱い”茶葉の生産に挑戦しました。
秋林:萎凋・発酵は、紅茶製法において、茶葉の品質に大きく影響する重要工程です。この工程を自在に操ることが可能になれば、お客様のお好みに応じたさまざまな香味特徴を持つ茶葉を生み出すことができます。
より質の高い紅茶を作るために「萎凋・発酵工程の特性を追究したい」という、つくり手としての技術と感性の探求が、「春茶」「夏茶」というそれぞれの個性へと昇華された作品ともいえます。
自然を尊ぶ日本の心。季節を味わう和紅茶「春茶」「夏茶」
秋林:「春茶」「夏茶」はその名のとおり、茶期(茶の生産時期)の違いを示しています。ダージリンのクオリティシーズンでいうところの「ファーストフラッシュ(春摘み)」「セカンドフラッシュ(夏摘み)」。または、日本茶であれば「一番茶」「二番茶」になります。
秋林:春摘み、夏摘みの生葉の素材本来が持つ味わいに加えて、萎凋と発酵の度合いは季節に大きく影響します。経験則として気温が低い春は萎凋や発酵の程度を強くすることが難しく、一方気温が高い夏は萎凋や発酵程度を強くしやすい環境と感じています。
お茶づくりの工程は容易に自動化できるものではなく、茶樹と大地、気候、人の手と感性が織りなす、自然との協同作業です。日々仕事をするなかで、自然を尊び、四季のうつろいを愛でる日本人ならではの心のあり方との親和性を感じることもあります。
そういった意味では、「春茶」「夏茶」は、まさに「季節を味わう飲みくらべ」を楽しむのに好適な作品です。是非違いを体感いただき、わたしの世界感に「なるほど」と満足していただけたら嬉しいです。