三井農林株式会社 R&D本部 茶葉開発室所属。
2005年入社、宮原工場(現藤枝工場)及び広島工場(当時)の品質管理課にて、主にティーバッグ製造やインスタントティーの品質管理に携わる。2012年に鑑定室へ異動、現在に至る。
原料購買での経験を活かした荒茶作りを得意とし、お客様が求める「あの商品のあの味」を寸分違わずに再現する。
国産の茶葉を使い荒茶づくりも手掛ける「#3(スクエアスリー)」シリーズ
秋林:「#3(スクエアスリー)」シリーズは、農家から支給して頂いた生葉を荒茶から製品化するまで私自身が手掛けることをコンセプトにしております。例えば2023年に商品化した「#3(スクエアスリー)MAKURAZAKI」は、鹿児島産の茶葉を使って枕崎で製茶したものです。中国茶の商品開発を担当しており、現地で得たものを商品開発へ展開できないかと考え、国産の生葉を用いた荒茶づくりを始めました。

荒茶の製造工程には複数の工程があり、どの工程も品質に対して重要なものとされております。また、生葉は農産物ですので、常に一定ではありません。そのため、生葉の状態に応じて、製造条件を変える必要があります。どの工程をどうしたら製品の香味が変わるのか、この勘を会得していくのが荒茶を作る上で難しいです。一方で、現場でこの変化を感じることができるのが荒茶を作る面白さでもあります。その変化の面白さを消費者の皆さんにもお伝えしたいと思っているので、私がつくったお茶で香味の違いを楽しむきっかけづくりができたらうれしく思います。
私たちティーテイスターは茶葉の品質を見て価値決めをすることが大事な仕事の1つなのですが、味の価値を提示するのは難しいもの。「この香味はどの工程に由来するものなのか」、荒茶づくりをすることで、作り手の視点に立った味の価値判断ができるようになるのではないかと考えています。
シリーズを通して意識しているのは、市場にないようなキャラクターの立ったお茶をつくることを心がけています。現在の市場では渋味が感じにくい国産紅茶が多く、お茶を飲む人も渋味を敬遠しがちですので、香りで差別化できるような国産紅茶を作っていきたいと考えています。具体的には台湾の「東方美人」のような香味を目指しています。渋味が弱く、蜜のように甘くフルーティーな国産紅茶を皆様にお届けできるように製茶技術を磨いていこうと思います。
「べにふうき」の2番茶で
つくった最新作
秋林:「東方美人」のような国産紅茶を作るには、生葉が重要な要素となってきます。「東方美人」は、ウンカと呼ばれる虫による害を受けた生葉を用いた方がより上質となれるお茶で、虫害を受けることで蜜のような香りが作られるとされています。ウンカの発生は、初夏あたりに盛んとなり、2番茶向けの葉の成長時期と重なります。
新作の「#3(スクエアスリー)2024」は「べにふうき」という品種の2番茶の生葉を使用しており、ウンカの虫害もあったことから、特徴的な香りをお楽しみ頂けるのではないかと考えております。
紅茶の香味づくりにおいて、私は萎凋工程が最も大事な工程と考えています。ただ、近年の2番茶は、雨や気温が高い日と荒茶づくりの時期が重なることから、毎度萎凋工程には気を揉みます。生葉も天候も一定ではないため、同じ製造要件を施しても同じ品質になるわけもなく、勘所を掴むのが難しいです。ただ、萎凋が進むにつれて生葉の香りが変化していく様子が感じられるため、最もワクワクする工程でもあります。


この紅茶は香りを楽しんでいただきたいので、ぜひ熱湯で淹れてください。茶葉と湯の量は、150mlに対して2.5gの茶葉が適量。この比率であれば、この茶葉が持つ香りの特徴を楽しめるのではないでしょうか。抽出時間が長すぎると渋みが増してしまうので4分がおすすめです。一方、形状は比較的大きいので、抽出時間が短いと抽出が弱くなってしまいます。そのため、少なくとも3分以上を抽出していただければと思います。
出品したコンテストでの評価も上々で
品質の向上を実感
秋林:「#3(スクエアスリー)2024」は国内外の様々なコンテストに出品しましたが、おかげさまで複数のコンテストで受賞することができました。年々受賞数が増えているので、品質が向上していることを実感しております。コンテストだけでなく、荒茶づくりでお世話になっている身近な方からも出来について評価頂き、感慨深いです。
コンテストでは、評点だけでなく、審査コメントも頂けることが楽しみのひとつです。コンテストによっては、審査員がお茶の専門家で構成される専門審査を行っているものや、専門審査に一般消費者で構成される一般審査を加えたものもあります。専門家や一般消費者がどのように感じていらっしゃるか、そのコメントが次の荒茶づくりのヒントになりますので、今後も声を大事にした改良は継続していこうと考えています(勝手に、受賞しなくてはいけないというプレッシャーを自身にかけています)。
世界に認められる和紅茶をつくり、
紅茶産業を盛り上げたい

秋林:紅茶界隈では、和紅茶に注目が集まってきているのではないでしょうか。弊社でも国産の茶葉を使ったこだわりの和紅茶を商品化していますが、このカテゴリーをもっと大きく成長させたいと考えています。もともと国産紅茶は、明治時代から生産が開始され、その後、海外産紅茶との価格競争により国内の生産量は減少していきました。しかしながら、近年では紅茶を生産する農家が増え、さらには国内外の茶葉審査コンテストで国産紅茶が受賞するようになり、紅茶の品質は向上していると実感しています。世界三大紅茶と言えば「ウバ」「キーモン」「ダージリン」ですが、和紅茶を加えて四大紅茶になるぐらい「日本の紅茶っていいよね」となればいいな、と密かに大きな夢を思い描いています。
そのためにも、まずは1927年に発売した日本初の国産ブランド紅茶「三井紅茶※」が100周年を迎える2027年に向けて 私自身の製茶技術を向上するべく引き続き取り組んで参りたいと思います。
日本初の国産ブランド紅茶です。