お気に入りの一杯をみつける旅へ
セイロン、ダージリン、アッサム……
紅茶の種類は、どれくらいあるでしょうか?
世界中のさまざまな土地で作られ、世界中でその土地ならではの飲み方をされてきた紅茶。
茶葉が育まれた気候風土や、栽培・製造方法の違いで味や香りは異なり、さらにブレンドやフレーバーによってその種類は無限に広がります。
つまり、「数えきれない」というのが正解でしょう。
熟した果物のような香りを感じるものがあれば、花や草原を思わせるものもあり、透き通った鮮やかなオレンジ色の水色(すいしょく)があれば、深い深い赤褐色になるものもあります。
たくさんの種類の紅茶を前にするとわくわくしますが、正直どれを選べばいいか悩ましいところ。でも、それぞれの個性を知って楽しむことで、紅茶の世界はどんどん豊かになっていきます。どうぞ気楽に、紅茶の世界に足を踏み入れてみてください。
さあ、お気に入りの一杯をみつける旅に出掛けましょう。
紅茶の銘柄のほとんどは生産地名
紅茶の分類は、茶の生産地名がそのまま銘柄になっているものがほとんどです。例えば世界三大紅茶は「ダージリン」「ウバ」「キーマン」とされていますが、「ダージリン」はインド東北部のヒマラヤ山麓にある地域のことで、「ウバ」はスリランカの南部にある中央山脈東側、「キーマン」は中国・安徽省(あんきしょう)南部の地域をさしています。
各地の標高や緯度などの地理的条件、気温や降水量などの気象条件や土壌、その他さまざまな要素が複雑に絡み合って茶葉の成長に影響を与えます。その結果、それぞれの産地で個性ある茶葉が生まれるため、どこで生産された茶葉かが重要な印であり、ブランドとなったのでしょう。
また、茶畑で摘まれた生葉は、新鮮なうちに傷がつかないよう工場へ運ばれ、製法によって異なるものの、およそ半日から二日ほどで完成品の紅茶に仕上げられます。それぞれの産地にて仕上げまでおこなうため、地域や茶園による違いがより大きく表れます。
紅茶の種類を選ぶということは、茶葉が生まれた地域を選ぶことでもあります。ティータイムの数分間、小旅行の行先を決めるように紅茶を選ぶのも素敵ですね。
同じ茶の木から、各地で個性の異なる紅茶が生まれる
ところで、たくさんの種類がある紅茶ですが、元をたどればすべて「茶の木」から摘んだ葉でつくられていることをご存じですか?学名をカメリア・シネンシス(Camellia Sinensis (L.) O. Kuntze)というツバキ科の常緑樹で、実は、緑茶や烏龍茶も同じこの木から摘採した葉でつくられます。
葉に含まれる酸化酵素の働きを活性化させるか、させないかなど、つくり方の違いでそれぞれのお茶になります。元が同じ茶の木だと聞いて驚かれる方もいるのではないでしょうか。
カメリア・シネンシスから作られた「茶」の世界年間生産量は約590万トン(2018年統計)にもなり、世界30カ国以上で栽培されています。各地でその土地に適した品種が栽培され、異なる気候風土に育まれて、その土地ならではの紅茶が生まれているのです。
茶の木が好む気候とティーベルト
世界のお茶の主な産地は、「ティーベルト」と呼ばれる北緯45度から南緯35度までの間に広がる土地に集まっており、北はジョージアから南はアルゼンチンまで、ほとんどの茶がこの地域で栽培されています。
ティーベルトは赤道と北回帰線(きたかいきせん)を中心とする地域。特にこの間の熱帯・亜熱帯気候地帯で、標高が高く冷涼な山地は、茶の木が好む気候となり、質の高い茶葉が育つといわれています。
高温で強い日差しがあり、降水量が多いこと。昼夜の寒暖差が大きく、自然の霧が発生しやすいこと。きれいな土壌や水に恵まれていること。
紅茶生産が盛んな国々はこのティーベルト地帯に位置し、良質な茶葉が盛んに栽培されているのです。その中でも今回は、特に銘茶の産地として名高い、インドとスリランカの紅茶をご紹介いたします。
インド北東部の高地「ダージリン」と低地「アッサム」
紅茶の生産量、消費量ともに世界一のインド。生産地は北東部と南部に二分され、広大な国土であることと、ヒマラヤ山系による高低差などにより、同じ国でありながら気候が大きく異なるため、北東部の高地ダージリン、低地アッサム、南部のニルギリ各地域で、それぞれ個性の異なる紅茶を産出しています。
北東部の高地ダージリン地方で生産される「ダージリン」は、「紅茶のシャンパン」といわれ、世界三大紅茶のひとつ。
標高500〜2000mのヒマラヤ山麓に位置し、日中の強い日差し、高地であること、ヒマラヤから冷涼な風が吹くことによる温度差で一日に何度も霧が発生することなど、茶の木が好む自然条件であるため、良質な茶葉が育ち、ダージリンティーの豊かな香味がつくり出されています。
収穫時期により、味や香りに大きな違いがあるのも特徴です。春に摘む一番茶、ファーストフラッシュは、「新茶」であり、抽出される水色は黄味がかって明るく透明感があり、爽やかな香りや味が楽しめます。夏に摘む二番茶のセカンドフラッシュは、芳醇な香りが特徴的な紅茶で、水色は淡いオレンジ色。品質のよい茶葉は「マスカテルフレーバー」と呼ばれる、マスカットに例えられる華やかな独特の香味を持ちます。
秋に摘む「オータムナルフラッシュ」はバランスがよく、味に深みがある飲みやすい紅茶です。
北東部の低地アッサム地方は、世界最大の紅茶産出量を誇る生産地。ブラマプトラ河流域の、雨が多く高温多湿な地域に茶園が広がっています。水色は深く濃い赤褐色で、コクのあるまろやかで濃厚な味わいと甘い香りが特徴です。
一般的にフレッシュな特徴のある茶葉はストレートティーで、コクの強い茶葉はミルクティー向きといわれており、アッサムはミルクティーにぴったり。そして、同じ北インドでも、ダージリンはそのまま飲むストレートティーがおすすめです。
産地による違いを感じていただくために、まずはダージリンとアッサムを飲み比べてみるといいかもしれません。
インド南部の「ニルギリ」とインド南東に浮かぶ島「セイロン」
インド大陸南のニルギリ高原では、年間を通して快適な気候のため、安定した栽培が可能です。水色は明るく美しいオレンジ色で、すっきりしたやわらかな味わい。良質なものは、ほのかに柑橘の香りが感じられます。クセがなく、飲みやすいことも特徴で、そのためレモン・ミルク・アイスティーなど、どんな飲み方にも向いているといわれています。
そしてこの特徴は、「セイロンティー」にもあてはまります。
セイロンとは、インド南東のインド洋に浮かぶ島国スリランカの旧国名であり、セイロンティーは、スリランカ産紅茶の総称です。スリランカは、日本の東北地方ほどの国土面積ながら、世界有数の紅茶の産地。日本で輸入されている紅茶の半数以上はセイロンティーで、昔から好まれてきた紅茶です。
インドは国土が広いため、ニルギリは、北部のダージリンやアッサムよりも、隣国スリランカの方が地理的に近く、気候や土壌も似ているのです。
「セイロンティー」の名で長く親しまれてきたスリランカ産紅茶ですが、インド北部で高低差により茶葉の特徴が異なっていたのと同様に、スリランカも高低差が大きいのが特徴のひとつ。
標高によって高い順にハイグロウン、ミディアムグロウン、ローグロウンと分けられ、それぞれ風味が異なります。
世界三大紅茶のひとつ「ウバ」は、スリランカ中央山岳地帯の東側の高地で、ハイグロウンティーとなります。
日本では高地ハイグロウンの紅茶が人気ですが、近年は低い土地ローグロウンで生産された茶葉の人気が中東を中心に高まっており、生産量も増えているようです。
まだまだご紹介したいことは尽きませんが、今回はここまで。
インド北部から南部、そして海を渡ってスリランカ島へ。ちょっと駆け足でしたが、紅茶をめぐる旅はいかがでしたでしょうか。産地や茶園名の分かる紅茶であればそこはどこにあるのか、高地なのか低地なのか、ぜひ地図をみながら、旅するように紅茶を味わってみてくださいね。